これまでのキャリアで、100件以上のAI/DX案件の相談、企画、検証、導入支援に関わってきた。

その中で、企画段階では大きな期待を集めていたシステムが、導入後には十分に使われず、現場に運用方法の試行錯誤を強いるケースや、問い合わせ対応の負担だけが残る場面も見てきた。導入した側は成果を感じている一方、実際に使う側には「これが欲しかったものではない」という思いが残る。

問題は、技術の性能だけではなかった。AIありきのテーマ、目の前の作業だけにとらわれること、経営と現場の分断、曖昧な成功基準、導入後の運用まで見据えた設計不足。こうした進め方では、導入自体は完了しても、期待した成果には届きにくい。

これまでの経験を踏まえ、小田原でAI/DX支援に取り組むにあたり、5つの約束を宣言したい。

1. AIありきで考えない

「最近話題だから」という理由から、ツールやAIを起点にプロジェクトが始まることは少なくない。ツールを導入することが目的になってしまい、なぜその業務を改善対象にするのか、それが改善されることで誰に、どのような恩恵があるのかといった議論が後回しになりがちだ。このようなケースでは視野が狭くなってしまい、そのツールで解決できる範囲の課題にしかスポットが当たらない。

そうではなく、まず会社・部門の抱える課題から会話を始め、その課題を解決するのに適した方法を考えていきたい。AIが適していない場合には、その理由を説明し、別の方法を提案することもためらわない。AIを使わなくても、Excelや既存システムの見直し、業務ルールの整理で十分なケースも多く存在する。

2. 会社全体から個別業務までを理解する

目の前の業務・作業だけではなく、その背景にある経営方針、ビジネスモデル、利益構造も含めて全体像を理解することを重視する。会社全体における業務の位置付け・目的を理解しておくことで、その業務の改善が現場の負荷低減だけでなく、経営戦略レベルでどう貢献できるのかを腹落ちさせることができる。業務レベルの改善を、経営レベルにつなげるストーリーを描くためにも、このプロセスが重要だ。

必要に応じて実際の職場に伺い、業務の流れ、判断根拠、関係者の人となりや考えを確認する。その上で、「この仕事はなぜ必要なのか」「会社全体の中でどのような役割を持つのか」まで考えたい。

3. 経営と現場の両方に意味のある成果を設計する

AI/DX支援を進めるにあたり、経営と現場では、同じプロジェクトでも大切にしていることや成果の見え方が異なることを意識したい。

経営者にとっては、売上や利益、受注率、生産性などが重要な成果になる。一方、実際に仕組みを使う現場では、二重入力や探し物、差し戻し、危険な作業、残業、判断への不安が減ることなど、より日々の仕事に近い変化が重要になる。

どちらか一方だけに意味がある状態ではなく、それぞれが何を大切にしているのかを理解したうえで、経営と現場の双方に意味のある成果を設計したい。そして、同じ取り組みであっても、それがそれぞれの立場にとってどのような意味を持つのかを翻訳して伝え、関わる人が「自分たちの仕事を良くするための取り組み」として納得して参加できる状態を目指す。

また、効率化によって生まれた時間を、単に別の仕事で埋めるのではなく、顧客との対話、新しい仕事への挑戦、社員の学習や技能継承などにどう振り向けるのかについても、経営者と一緒に考えていきたい。

4. 成果を測る基準と判断条件を、先に決める

前の項目で「何を成果とするのか」を整理したら、次に、その成果をどのように測るのかを決める。どの指標を使い、現在どの水準にあり、いつまでに、どの程度変化すれば成功とみなすのか。導入前にそこまで具体化しておきたい。

また、期待した変化が得られなかった場合の対応も事前に考える。「この水準なら継続する」「ここまでは改善する」「この条件を超えたら一度中止する」といった、「もしこうなったら、こうする」という判断条件まで決めておく。

そうしておかないと、ツールを導入したこと自体に満足したり、「せっかく費用をかけたのだから」と効果が曖昧なまま使い続けたりする可能性がある。効果を見る際も、時間短縮だけではなく、誤り、差し戻し、現場の確認負担、情報管理上のリスクなども確認したい。

プロジェクトが始まってから都合よく成功の定義を変えるのではなく、成果と判断の物差しを最初に共有しておく。それによって、続けるのか、直すのか、止めるのかを関係者が迷わず判断できる状態をつくることができる。

5. 導入して終わりにしない

AIやシステムは、導入した瞬間に完成するものではないと考えている。実際に現場で使い始めてみると、「この操作は思ったより負担が大きい」「このケースではうまく使えない」など、企画や検証の段階では見えていなかった課題が出てくることもある。

だからこそ、ツールを導入したところで関係を終わらせるのではなく、その後の定着や運用の中で生じる困りごとにも向き合っていく。

小田原を中心に活動するからこそ生かせるのが、現場との距離の近さだと思っている。必要に応じて実際の職場に伺い、どのように使われているのかを見ながら、運用上の課題や改善すべき点を一緒に考えたい。

「導入した後は自分たちだけで何とかしなければならない」と不安に思うのではなく、困ったときには相談できる人が近くにいる。そんな安心感を持って新しい仕組みを使い続けてもらえる関係をつくっていきたい。

約束を実践するために

ここに挙げた5つの約束は、支援先に向けた言葉であると同時に、自分自身を律するための基準でもある。掲げただけで終わらせず、一つひとつの支援の中で守っていきたい。

AI/DXの実務については、これまで多くの経験を積んできた。一方で、自分自身の事業を営む経営者としては、まだ学び始めたばかりである。事業を続け、顧客に価値を届け、人や組織を育てていくことについて、小田原をはじめとする地域の経営者や社員の皆さんから学びたい。

私が一方的に答えを持ち込むのではなく、皆さんから会社と仕事について教えていただき、私はAI/DXの専門性を持ち寄る。そうした対話を重ねながら、導入して終わるのではなく、それぞれの会社が自分たちで改善を続けられる状態を、一緒につくっていきたい。